テキスタルデザイナーのT様を
群馬県桐生市に訪ね、
そのお住まいと暮らしの楽しみについて
お聞きしてきた、「おもやのよもやま話その一」も
最終章となりました。
暮らしに灯す「あかり」のコレクションなど、
今回も興味しんしん。
最後までごゆっくりお付き合いくださいませ。
T様のお住まいで感じたのは
「自然体」「無造作」ということ。
骨董のそば猪口や、
レトロできれいな色のガラス壜、
アンティークな灯り・・・
ひとつひとつの調度品が
念入りに選ばれているからこそ、
一見、無造作に置かれていても
とても絵になる空間が
生まれているのだと思います。
無造作には数寄の造作があり、
自然体には風雅な知見がある。
そんな感じでしょうか。
T様邸の設計・施工を担当された
石原工房の石原社長さんも、
よりよい住まいの探求について
余念のない方です。
「良き住まい・良き暮らし」とは、
住み手と作り手の相互作用から
生み出されるものだと、
あらためて実感します。
おそらく明治、大正、昭和初期のものと思われる
アンティークなガラスの照明の数々も、T様のコレクション。
デザインに職人の「手仕事感」が息づき、
人肌のぬくもりを感じさせるやわらかな「あかり」が、日々を灯します。
「これから、少しずつ、いろんなものを足していこうかなと思ってるんです」
とT様がおっしゃるように、お住まいの本当の愉しみは、これからです。
「カーテンは、自分で気に入った布を探してつくろうと思っています。
玄関とリビング・ダイニングの間には、間仕切りをつくりたいんですよ。
これは、やっぱり菅原さん(注:染織家・陶芸家の菅原匠さん/「其二会」をご参照)の
藍染めの暖簾を使いたいんですよね。
鷺が飛んでいる図柄があって、これがまた、いいんですよ(笑)。
時間帯で光の加減が変わるでしょ?
その光の具合で、藍の色が透けてしまって、鷺だけが浮かび上がって見えるんです。
ほんとに鷺が宙を飛んでいるような感じ。
それがまた、素晴らしいんですよね(笑)」
T様のこれからの愉しみは、暮らしの新しい懐かしさとなって、
日々に根づいていくことでしょう。
「庭をどうしていくかも、楽しみなんです。
今、白いゴヨウツツジを探してもらってるんですけど、なかなかないんですって。
ゴヨウツツジは、蝶々が飛んでるような、優しい花の感じがいいんですよ」
好きが高じて、数寄になる。
そこには、良いものを発見する工夫があり、
その歓びに満ちた、生活の面白さがあります。
陽は落ち、時が満ちて、T様のお宅を失礼する時間になりました。
外へ出ると、わたらせ渓谷線でしょうか、列車の音がゴトゴト遠く聞こえてきました。
今回は、これにて失礼いたします。
次回の「よもやま話」も、気長にお待ちくださいませ。
<おわり>
謝辞:今回の取材撮影にあたり、T様、石原社長様に感謝申し上げます。