おもやのよもやま話 その一

富貴らんらんの暮らし

其二会 ノスタルジーを愛でる

富貴蘭をはじめ、
骨董、アンティークなどに造詣が深く、独自の審美眼で日常を紡がれているテキスタルデザイナーのT様。
そのお住まいを群馬県桐生市に訪ね、
いろいろなお話しをおうかがいしてきました。
其二会(その2かい)は、
「富貴蘭」などのお話しです。

網戸から心地良い風がぬけるリビング・ダイニングをあとにして、2階へ。
T様宅の2階には、「蘭」のための部屋があるのです。

2階にあがると、居室の入口に大きな「蕪(かぶ)」が染め抜かれた、見事な藍染の暖簾が。
光の差しぐあいで麻布の透け方が変化し、蕪の見えも変わる美しい品です。

この藍染の暖簾は、伊豆大島で染織や陶芸を生業とする菅原匠さんの作品。
藍は生きている素材なので、「建てる(水に溶けない藍を水に溶けるよう変化させて染め液を作ること)」という作業がとても難しいとのこと。

T様は、型紙や下絵を用いない「指描き」や「筒描き」で麻布に直に図柄を描く菅原さんの独創的で愛嬌のあるデザインが、たまらなく好きなのだそうです。

富貴は、こころ

2階に設けられた「蘭」のスペースは、2つあります。
ひとつは、「富貴蘭」のための半屋外のデッキスペース。
もうひとつは、海外の珍しい蘭などを栽培するための空調付きの小部屋スペースです。

「富貴蘭」とは、もともとは日本原産のラン科の着生植物「フウラン」のこと。
その葉と花の美しさや芳しい香りなどから、古くから園芸植物として栽培され、
いつしか古典園芸植物としてのフウランの総称として
「富貴蘭」と呼ばれるようになっていったようです。

「富貴」の名の通り、江戸時代には徳川将軍家や諸大名などに愛好され、
姿、形の珍しい富貴蘭の収集が一大ブームを巻きおこしていたそうです。

T様と蘭との出会いは、大学生の頃。

「たまたま入った横浜の山野草屋さんで見かけて、あ、いいなと思って。
もともと両親が家庭園芸とか好きだったので、
そういうのを見ながら育ったせいもあるかもしれませんね」

それから、富貴蘭に魅せられたT様。

「実は、この場所を選んだ理由のひとつも、蘭の栽培に適していたからなんです(笑)」

「文化・教養・洗練」と訳される
「カルチャー:culture」の語源を辿ると、
「耕す」という意味に行き着きます。

農耕栽培や園芸には、万年、千年の
人間本来の文化の積み重ねがあって、
そこに、私たちはえも言われぬ魅力を
感じとってしまうのかもしれません。

「富貴蘭は、全国規模の展示会もあって、
番付がついたりもするんです。
出品作品は江戸時代の古伊万里とか、
楽とかの古鉢に入れてあるんですけど、
その姿がまた、いいんですよね(笑)」

ナチュラル・ノスタルジア

「こっちの方は、ちょっと手がかかるんです。こまめに手をかけてあげないといけない」

とT様がおっしゃるのは、もうひとつの「ラン」のほう。
「クールオーキッド」などと呼ばれる、熱帯の山岳地帯などに自生するランです。
下の写真のように、コルクなど木の皮に植え付け(板付け)されて育てられています。

富貴蘭とはまた趣きが異なり、こちらはなかなかワイルドな趣きですね。

「ランは、その国その国でいろんなランがあります。
うちにもいろいろありますが、例えばマダガスカル原産のランとか、
日本のセッコク(石斛)とかも栽培してます。
いろんな木に着生するランがあって、それぞれ違うんですよ。
好きな人じゃないと、その違いは分からないかもしれませんが(笑)」

T様がおっしゃるように、それぞれ違う種類のランたち。
咲かせる花の美しさもまた、それぞれ違います。

「“ラン”っていうと、胡蝶蘭とかシンビジュームとか“洋蘭”のイメージが強いですよね。
でも、なぜか、こういう自然のランに魅かれるんですよね。
骨董も、自然のものも、そこはかとないノスタルジーがあって、それが好きなんです。
ランを育てているのも、ノスタルジーを感じたくて育てているのかもしれません」

T様のお話しをおうかがいしているうちに、ゆっくり日も暮れてきました。

今回はこのあたりで。
次回は、アンティークなあかりの話などを。

<其三会につづきます>

其一会 なんでもない日をおもてなす

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