




季節を描く◉夏の手作りアート
[押し花と垂らしこみアート]
おもやの暮らしでは、今号から「季節を描く手作りアート」として、四季の自然をモチーフに、みなさまご自身の感性を生かして手軽に楽しめるアート作りをご紹介していきます。
最初にご紹介するのは、「押し花」と「垂らしこみ」という技法を組み合わせた、夏を彩る涼やかなアートです。
花や葉に重しなどで圧力をかけて水分を抜き、平面上に乾燥させる押し花は、植物標本にするための保存方法として、16世紀のヨーロッパで始まったとされています。
草花に重しをしてほおっておくだけで、装飾性や芸術性が生み出される押し花は、もっともプリミティブ/原始的なアートのひとつといえそうです。
垂らしこみは、桃山時代から近代にかけて名を馳せた美術・工芸のスタイル「琳派(りんぱ)」を中心に継承された日本独自の技法。
先に塗った水墨・絵具が乾かないうちに、異なる濃度や色の水墨・絵具を加える技法とされ、琳派の諸作品にみられる様々な「にじみ」を総称して呼びます。
琳派の作品は、金銀の背景、大胆な構図、スタンプのような繰り返しの表現、そして「垂らしこみ」が大きな特徴で、俵屋宗達による国宝『風神雷神図屏風』などが代表的な作品です。
<垂らしこみが使われている代表的な作品>
※「ColBase 国立博物館所蔵品統合検索システム」へリンクしています
◉俵屋宗達「風神雷神図屛風(ふうじんらいじんずびょうぶ)」
◉酒井抱一「夏秋草図屏風(なつあきくさずびょうぶ)」
「垂らしこみ」と同じ水彩画の技法は西洋にもあって、「ウェット・イン・ウェット」と呼ばれるそうですが、技法の成立は垂らしこみの方が150年ほど早いそうです。
その理由は、日本古来の「和紙」にあります。
原料になっている植物の繊維が長い和紙は、水をたっぷりと吸い込んで、絵具の色が綺麗にじわっと広がります。
そんな和紙の性質が垂らしこみと絶妙にマッチし、技法の進化に貢献したのでした。
「芸術的風土」ともいわれるように、アートは、その地域特有の気候や地形などの自然環境、そこに暮らす人々の生活習慣や文化、歴史などによって育まれていきます。
感性のおもむくまま、自然の恵みをアートにして、この夏の日々を彩っていただければと思います。
OMOYA LIFE Season2 [2026 SUMMER vol.05]

準備するもの


◉押し花
・新鮮な植物
・ティッシュ、キッチンペーパー、新聞紙
・重石となる本(辞書など3~5キロ程度)
・細かい作業用のピンセットなど
〜押し花に向いている夏の植物〜
アジサイ、ツユクサ、アサガオ、ニチニチソウ、クローバー、ハーブ系の植物、シダ系の植物、かすみ草、レースフラワー、バーベナ、千日紅など
・花や葉が薄く、水分が少ないものがおススメです
・花びらが多く分厚い花は向いていません
・夏の季節感を出すには、緑の葉をメインにすると涼しそうな印象になります
・特にシダ系の植物はデザイン性の高い葉の形をしているので、絵になります
◉垂らしこみ
・水彩絵具(アクリル絵具でもOKです)
・筆
・水
・画用紙
・マスキングテープ
・ピンセット
・糊(塗るタイプの液状のりなど)
・額装用のフォトフレームなど
作り方

1:押し花をつくる
まずは、新鮮な植物を用意します。
お庭の草花を摘んだり、花瓶のお花が枯れる前にカットしてお使いください。
<1-1>
キッチンペーパーや新聞紙の上にティッシュを敷き、仕上げたい形に植物を整え、乗せていきます。
細かい部分はピンセットを使うのもおすすめです。

<1-2>
<1-1>の上にティッシュを重ね、さらにキッチンペーパーや新聞紙などを重ねます。

<1-3>
<1-2>を、辞書など厚みのある本の間に挟み込みます。
そのまま1週間ほど乾燥させて完成です。
[POINT]
◎乾燥させて2日目頃に、キッチンペーパーや新聞紙を交換すると乾燥が進みます。
※市販の押し花用乾燥シートを活用してもOKです。


2:垂らしこみ
押し花が完成したら、垂らしこみの技法を使い、アートにしていきます。
<2-1>
画用紙の波打ち防止のための簡易的な水張り(※)として、画用紙の四辺をマスキングテープで固定します。
[POINT]
◎あらかじめ画用紙をフレームに合わせた大きさに切っておくと、額装がスムーズになります。
◎マスキングテープは雑貨屋さんなどで購入できるものでかまいません。
◎粘着力の強いマスキングテープを使うと紙が痛むので、粘着力の弱いものを使うか、マスキングテープをいったん洋服などにくっつけて繊維をつけるなどして、粘着力を弱めてから貼りましょう。
(※)水張り:水を含むと膨張し、乾くと収縮する紙の性質を利用して、水を吸わせて伸ばした状態の紙を木製パネルなどに張り付ける手法

<2-2>
画用紙に、垂らしこみを作りたい部分を想像しながら、押し花を並べてみます。
ピンセットなどがあると、位置を細かく調整しやすくなります。
押し花を並べる位置が決まったら、いったん画用紙から押し花を外し、垂らしこみを作っていきます。

<2-3>
まずは、形を描くように、ベースとなる絵具を薄めに塗ります。
[POINT]
◎通常よりも少し水分を多めにして、多少の水たまりができるくらいの状態で塗ります。
◎絵具は使わず水だけでもOKです。
◎色数や組み合わせは自由ですが、初めての方は「水色・紺・青」や「オレンジ・赤・ピンク」など、同系色の組み合わせにすると、まとまりよく仕上がります。

<2-4>
ベースの色が完全に乾ききらないうちに、筆にたっぷり含ませた「別の色」または「同じ色を濃くしたもの」または「墨」を、点状に「ポトッ」と落とします。
[POINT]
◎筆先を紙に軽く触れさせるか、少し高い位置から落とすようにします。
◎絵具は乾くと色が薄くなるので、少し濃いめに絵具を落とします。
◎無理に筆で混ぜようとせず、絵具が自ら広がるのを待ちます。

絵具の境界が自然に混ざり合い、複雑なグラデーションやムラが生まれます。

<2-5>
そのまま水平な状態で自然乾燥させます。

<2-6>
垂らしこみが完全に乾燥したら、押し花を乗せていきます。
[POINT]
◎垂らしこみとの位置を見ながら、バランスよく配置していきます。
◎花によっては下の絵具が透けるので、その点も考慮しながら美しく見える配置を探します。

<2-7>
配置が決まったら、糊で押し花を固定します。
[POINT]
◎持ち上げた時に押し花が落ちなければ大丈夫ですので、完全に押し花が固定されていなくてもOKです。


<2-8>
画面にサインを描き入れ、額やフォトフレームなどに納めて完成です。

庭の草花を摘んで、季節の手作りアートを楽しむなんて、思いのほか簡単で、思った以上に素敵です。
アート監修/制作
画家 篠崎 遥香 Shinozaki Haruka
茨城県下妻市出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了。
日本画画材を用いた作品を追究する傍ら、アートを通じて社会とのつながりを生み出す美術教育プロジェクトを展開。
現在は千葉県柏市を拠点に、社会に新しい気づきをもたらすアートプロジェクトを推進している。
instagram.com/haruka.shinozaki.2017/
