言葉が広げてくれる世界
『舟を編む』という作品と出会いました。
辞書作りに心血を注ぐ人々の奮闘する姿を綴った物語で、私は映画化、ドラマ化されたバージョンからこの作品のことを知りました。
私自身、最近はめっきりと辞書に触れる機会が減ってしまい、初めて知る言葉や単語の意味を調べるために、デジタル的に検索することがほとんどです。
目的があってピンポイントで情報を拾いにいくため、短時間で結果に辿り着くことができ、とても便利ではありますが、辞書のように、目的の言葉以外に飛び込んでくる、偶然出会う言葉たちとの繋がりは、案外少ないように感じられます。
また、紙の質感やめくる時の音、ものづくりに携わる立場として、手に取る相手のことを思い、五感にどう訴えかけるか、その意志や信念を感じ取ることが出来るのも、辞書の魅力の一つだと学ぶことができました。
辞書は言葉と出会える場所。世界が広がる場所。
世界が広がる場所・・・いうなれば私たちの日常もきっとそうだと思います。
いつも通っている同じ道でも、車、自転車、徒歩、その速度や視点次第で発見するものが全然違う。
偶然の出会いから興味、関心へと繋がり、それが自分自身の世界観や価値観を広げてくれるきっかけにもなる。
最短ルートだけがすべてじゃない、回り道や立ち止まることで見えてくる不思議たち。
それを自身でどう捉えるか。
奥深さ、不思議さや楽しさ、そして美しさ。
日本語には、同じ言葉でも色々な意味や解釈が含まれています。
ポジティブさ、ネガティブさ、元気づける、傷つける。
相手を動かし、前向きにさせ、時には人生まで変えてしまうほどのエネルギーを持ちながら、一方で、その言葉に含まれるネガティブな要素に気づけなかったがため、一切他意や悪気はないけれど、静かに誰かを傷つけてしまっていることもある。
だからこそ、人には「思いやる」という感情が備わっているように思えます。
相手の感情に寄り添い、その尺度の中で言葉を選び、思いや気持ちを添えることができる。
言葉に体温を与え、命を吹き込むことができる。
これからの人生の道のりにおいて、自身を体現するような、魂の震える素敵な言葉たちと巡り会えたなら、それは時として心を癒し、支え、見守ってくれる、大切な宝物となって、広がる世界を映し出してくれることでしょう。
浦上 日章
Text by Urakami Nissho