お知らせ
SAiN
2026/03/31
【Featuring SAiN88[施主様からの特別寄稿]四季めぐる空気がうまい家】レシピと技 〜水を食べる〜
なんだかこの冬は暖かいなぁ」と、感じた一月でした。
ところが、二月になって急に冷え込むと、いつも以上に寒さが厳しくなったように感じ、「早く暖かくならないかなぁ」なんて思いながら、祈るような気持ちで何度も長期天気予報を眺めていたものです。
これだけ、様々な技術が進歩しても「寒さはコントロールできない」と、当たり前のことを改めて感じながら冬を過ごしました。
実は、年末年始にかけて、我が家では蕎麦を打つことにしているのですが、蕎麦打ちの工程の中にどうしても不思議に感じるところがあるのです。
かれこれ、五年以上も前から不思議だったのですが、この冬にやっと、その不思議がぼんやりとですが、分かり始めたような気がしたのです。
それが、水のコントロールなのです。
レシピがあれば名店の味も再現できる
「何か美味しいものを作りたい」と思ったら、レシピを検索し、書かれている通りに作業を進めるのが通常です。
有名店のシェフの方が解説をしながら調理をしている動画も見ることができるので、素人の私たちも、美味しいものが手軽に作りやすくなりました。
どこで聞いたのか忘れてしまいましたが、「レシピは、シェフを雇うのと同じくらいの価値がある」という言葉に以前は、妙に納得させられたものです。
けれども、今は、「本当にそうなの?」という気持ちの方が強くなってきました。
その理由がお蕎麦に隠されていたのです。
お蕎麦の材料も作り方もとてもシンプル
お蕎麦は、細かく分類すると地域や人によって様々な作り方がありますが、極めて簡単に言えば、
【原材料】
◎蕎麦粉・・・400g
◎つなぎ(小麦粉)・・・100g
◎水・・・230g
◎打ち粉(花粉)・・・適量
これらを混ぜ合わせて、しっかりと練って、薄く広げて畳んで切れば完成です。
こうすることでお蕎麦は、出来上がるのですから、「分量さえ間違わなければ、大きく失敗することはないだろう」と、蕎麦打ちを初めて挑戦した時には思ったものです。
ところが、出来上がった蕎麦は、もはや蕎麦ではありませんでした。
茹でてみるとプツプツと切れてしまい、蕎麦ならではの「ズルズル…」とすする楽しみなんて全く味わえませんでした。
蕎麦打ちが上手な方にこの原因について質問すると、
「それはなぁ、水が均等に広がっていないからだよ。」
と言われたのです。
水を均等に広げればいいのか…
原因が分かったので、今度は、水が均等に広がることをイメージしながら、入念すぎるだろうというくらい、練ってみました。
もちろん、蕎麦の塊の表面もしっとりとし、内部もしっとりしています。
手でどこを触っても同じ様な感触なので、水は十分に広がっているような気がします。
ところが、こうして打った蕎麦も茹でると、プツプツと切れてしまいました。
文句の言い様がないくらいに練ったので、水は十分に広がっているはずなのに。
水回しが足りないんだよ
水回しというのは、蕎麦粉と水を混ぜ合わせる最初の工程で、「十分に水を行き渡らせなければならない」と言われるものです。
問題はこの「十分に」という言葉の理解だったのです。
「蕎麦粉の全体が湿ったら…」
と表現することもできそうですが、五分間も混ぜ合わせていたら、全体が湿ったように感じられるものです。
ところが、それではまだまだ不十分だったのです。
これは、例えて言うなら、砂場に水をザッとかけるのと同じです。
砂に水をかけると全体が湿ったように見えますが、内部は湿った部分と乾いた部分の両方できてしまうことは想像できると思います。
このムラがある状態でいくらコネコネ練っても、もう水は広がらないために、最初の「水回し」という工程が超重要だということだったのです。

蕎麦粉に水を混ぜた瞬間、蕎麦の香りが漂います

蕎麦粉の感触を手で感じ取りながら練ります

水が十分に広がっていくと自然と小さな団子状に

体重をかけて練りまくっても水は広がらないのです

完成まであとわずか、最後まで気をぬかず均等に
レシピでは表現しきれないもの
「蕎麦粉全体に水が広がったら…」簡単な言葉ですが、この言葉を理解するのに私の場合は何年もかかってしまったのです。
「水は練っている間に自然に広がっていくものだろう」なんて勝手に思ってしまったのも、理解に時間がかかってしまった原因です。
蕎麦粉とつなぎと水。
分量は全く同じであっても「水まわし」をどれだけ丁寧にするのかで、全く別物ができあがるということをここ数年で体感してきました。
しかも、蕎麦打ちが上手な方は、レシピの分量にこだわらず、気温や湿度、水回しをしながら蕎麦粉の感触を手で感じ取りながら、水を一・二滴足した方がいいなどと判断をされています。
こうした感覚的な部分は、長い歴史の中で受け継がれてきたもので、その背景にはたくさんの失敗も隠されていて、決してレシピでは表現しきれないことなんだと思います。
それにしても、蕎麦という植物は、成長の過程では水を好まないけれども、お蕎麦になる時には、水との絡みをとても大切にしています。そして茹でる時にも水を使い、蕎麦つゆにも水を使います。
「蕎麦っていうのは、水を食べるようなものやで。」
随分前のことですが、初めて蕎麦打ちを教わった時に言われた言葉の意味が、やっと分かり始めたような気がします。
京都府宇治市 渋谷浩一郎
◎渋谷さんの自然についてのコラムは下記でもお読みいただけます
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