お知らせ

SAiN

2023/06/29

【施主様からの特別寄稿:Featuring SAiN77】長く使えるもの 〜手間をかける楽しさ〜

つい先日まで、寒いなぁ…なんて思っていましたが、五月に入ってから急激に暖かくなり、「暑いですね」が挨拶になりました。

春の穏やかな時期は山椒の芽が食べごろですが、今年は何となく美味しく食べられる時期が短かったように思います。
それは気候のせいもあるかもしれませんが、この春から長男が進学のために家を出ることになり、バタバタと引越しの準備をしていたためかもしれません。

長男の引越しついでに、我が家の物の整理も合わせてやってみたのですが、意外と良さそうなものでも短命で、反対に、大して高価でもないものが長寿であることに改めて気付いたのです。


便利で丈夫なフライパン?

なんでもない料理ほど、奥が深い?

スーパーやネット通販サイトを見ても「フライパン」と言えば、「テフロン加工」がされたものが主流です。
「ひっつかない・洗いやすい」という理想的なフライパンの機能をもっているので、主流になって当然です。歴史も古くもう五十年近くも販売され続けています。

もちろん、我が家もこれまでにいくつものテフロン加工フライパンを購入してきました。
ただ、問題は「これまでにいくつも購入した」ということ。
どうしても、1年以上も使い続けると、理想的な機能が落ちてしまいます。

ですから、最近では、
・耐久性指数(※)の表示
・ダイヤモンドコーティング
などがされるようになり、耐久性の問題をなんとかしようと企業努力をされているように感じます。

加工されたフライパンの耐久性に我が家は悩まされてきたので、当然「ダイヤモンドコーティング」されたフライパンも使ってみましたが、やはり二年もするとその素晴らしい性能は、落ちてしまいます。
現代技術をもってしても、不可能なことはあるものなんだなぁ…と感じさせられるのです。

※耐久性指数とは?
100・200・300…と600まで6段階でテフロン加工の耐久性を示したもの。
100に近づくほど耐久性が低く、600に近くほど耐久性が高い。


なんでもないただの鉄のフライパン

ところが、幼い頃からオムレツ作りが大好きだった長男のフライパンは、二千円程度の何でもない鉄製のフライパン。

しばらく使っていなかった時期もあったので、一度は悲惨な状態になってしまいましたが、一度磨き直すと新品の様に蘇り、シーズニング(油を馴染ませる)と全く問題なく使えたものです。

もちろん、使い終わった後には、その都度、油を塗っておく必要はありますが、こうすることで、かれこれ十年程度、「こびりつかない」という機能を維持し続けることができたのです。

なんでもないものほど、長持ち?


三十年以上前の包丁

包丁も同じことが言えそうです。

「若い頃は、肉屋で仕事をしていたんだ。もう二十年以上前のものになるけれども、肉切り包丁をあげるわ。」

そんな話をしてくれた知人から、鋼(はがね)の包丁を十年くらい前にいただきました。
ざっくり三十年は使われ続けてきた包丁です。
よく見ると、一部傷はあるものの、適度にお手入れをし続けているからでしょうか、まだまだ綺麗な状態です。

一般に鋼の包丁は、「錆びやすい」と言われますが、洗い終わった後に綺麗に水分を拭きとってから片付ければ、何も問題はありません。
もちろん、切れ味も時々、研いでやるだけで、落ちる気配もありません。

ステンレスの包丁は、「錆びにくく扱いやすい」と言われますが、なんとなくこの性能に甘えてしまい、扱いが雑になっている様に思います。
結局、高性能なステンレスの包丁は、切れ味が劣化してしまっているような気がするのです。

鋼とステンレス。手間が生む愛着。


手間をかけてやることが一番いい?

こうして身の回りのものを見ると、私たちは、「手間要らず」というものを求めていますが、手間を掛けない暮らしをすると、ものの寿命が短くなってしまうのかもしれません。

例えば、落としても壊れることのないプラスチックのコップは大変便利ですが、十年以上使うということは、なかなか想像できません。

一年ごとに何かしらメンテナンスをする必要もありませんが、知らず知らずに、プラスチックのコップとの距離が大きく開いてしまい、「そう言えば最近は全く使ってないなぁ」なんてことになってしまうのではないでしょうか。

一方、陶器の器は、落とすと簡単に割れてしまいます。
だからこそ、扱う時には、少し慎重になったり、拭く時にも自然と丁寧に拭いたりしていることに気付かされます。

こんな話を書きながら、合間に古い肉切り包丁を軽く研いでみました。
少し研いだだけですが、十年ほど前にいただいた時よりも、鋭い切れ味が蘇ってきました。

「手間が掛かる」

現代ではなかなか歓迎されにくい言葉ですが、道具も人も植物も「ちょっと至らないところがあるから手間を掛ける」というのが、いい塩梅じゃないかなぁと思います。

我が家のキッチンも特別な加工がされたものではありません。
ステンレスの天板と音響熟成®︎木材で作られたものです。
引越しついでに、少し磨いてやると、スッキリした状態になりました。

このキッチンとも、まだまだ長いお付き合いができそうです。

自然の力が生む、長いお付き合い。


 京都府宇治市 渋谷浩一郎

 ◎渋谷さんの自然についてのコラムは「自然発信基地」でもお読みいただけます
 https://shizen-hasshin.e-kaiken.com/category/shizen-hasshin/